ラグビーチームを指導するにあたり、よく伝えることについて。
試合で必要なことはズバリ
【修正=変える発想と勇気】
である。
今回はそのことについて書く。
大学HCを4シーズン務め、1000回以上の練習をし、現在もプロコーチとして多数のチームを指導する俺なりのやり方。
コーチはインプットの機会、誰かのコーチ論を知る機会が少ないと思うので、参考にしてみて欲しい。
よくインタビューや解説でもおなじみ、【修正】という言葉の本質も捉える必要がある。
ミスは起きる。【「種類」を見極める】
ラグビーの試合では、準備をしていても大抵同じような問題が起きる。
だからこそ、起きうる問題を想定して練習することが非常に大切です。
試合の勝敗に大きく影響するものの一つが「ミス」。
相手があってのスポーツである以上、ミスが起きることは前提だが、重要なのはそのミスの「種類」を見極めること。
ミスは必ず起きる。
大事なのは、そのミスをどのように捉えるか。
ミスの種類は、大きく分けて二つあります。
- 相手が関係するミス: 相手のプレッシャーやタックルの中で起きるミス。
- 自滅のミス: 相手関係なく、自分たちの単純な連携ミスなどで起きるもの。
今回は、特に「相手のプレッシャーの中で起きるミス」について、
どのように準備し、対処すべきか、その鍵となる「選択を変える発想」と「勇気」について解説する。
即座の修正する【試合の勝敗を分けるポイント】
練習してきたプレーでもミスが起きている場合、試合中に即座に修正しないといけない。
大学生の試合は40分ハーフの80分。
前半の40分で修正できず、ハーフタイムを使ってミスを修正しようとすると、残りの40分でその対策を試して巻き返さなければならず、前半のミスがそのまま勝敗に繋がってしまうことがあります。
大事なのは、プレーが起きた瞬間、
グラウンドの中で選手たちがどれだけ早く修正(ミスを分析し、プレーの選択を変えること)ができるかどうかが勝負を分ける要素になる。
コーチボックスからのアドバイスも重要ですが、スクラムやラインアウトまでのわずかな時間、あるいはトライした/された後の短い時間の中で、選手自身が即座に修正し、次のアクションを起こすことが求められる。
試合中にコーチからの助言が通ることはそんなに多くはない。
大事なのは、グラウンドで試合をしている選手たち自身の言葉で話されていること。
変える発想と変える勇気【他のカードを持つ】【「こだわり」と「固執」の違い】
相手のプレッシャーの中で起きるミスは、プレーの選択肢を変えることによって改善される可能性がある。
変える発想(もう1枚のカード=選択肢を持つ)
「変える発想」とは、
「こういう場合はこっちのパターンもあるよね」
と、チームとして常に複数のカード(異なるプレーの選択肢)を持っておくことだ。
例えば、ラグビーでよく起きるパスミスを考えてみる。
ミスをよく見ると、相手に接近しすぎてキャッチやパス自体が難しい状況で起きていることが多々ある。
この場合、
「ギリギリまで相手を引きつけてからパスをする」のではなく、
「先に投げてパスミス自体を減らす」
って方向にプレーを変えることが大事になる。
一見、華麗な突破はなくなるかもしれないが、その代わりにボールの継続性が高まり、次の攻撃機会を確保し続けることができる。
「攻撃はオールオプション」でっていうこともあるが、それは正確ではない。
あくまで「DF側にとってオールオプションであり、AT側にとっては、決め打ちのAT」でも良い。
大事なのは、仲間にとってわかりやすくプレーをして、ミス自体を減らすことだからだ。
この例の場合は、
・ギリギリまで引き付けてパス
・先に投げる
って2枚のカードを使い分けたことになる。
プレーを変更するっていうのは、こういうこと。
変更する勇気(固執しない文化)
同じミスを何回も続けていると、ボールを失い、自分たちの流れをなかなか引き寄せることができない。
ここで必要なのが、「選択肢を変える勇気」。
気を付けなければいけないのは、「こだわる」と「固執」を混同させないこと。
言葉は正確に捉えて使用することが必要。
- こだわること: 自分たちの強みに対し、同じカードを出し続け、プレッシャーをかけ続けること。
- 固執すること: 自分たちにとってネガティブなことを、改善せずそのまま続けてしまうこと。
同じミスが起きている時、
それが「こだわっている」のか「固執している」、はたまた「自覚すらできていない」のかをよく見極めなければいけない。
固執しているなら、それはとっとと手放して次に切り替えなければならない。
そこで必要なのが、「変える発想」とそれを実行する**「勇気」だ。
練習でやるべきこと【修正を「文化」にする】
試合中に「変える発想」と「勇気」を発揮するためには、練習でその文化を作っていく。
コーチの役割は、単純な練習で起きているミスについて、
「これはどういう種類ミスなのか?」「原因は何か?」
「このミスをカバーするためには、自分たちにはどの選択肢がある?」
「いまどんなミスが続いてるか分析して」
と選手に問いかけ続けること。
そして、コーチとして「変えること」に対してプッシュしていかなければなりません。
- 「変えることを恐れないでほしい」と伝え続けること。
- 「変えないことのほうが試合を難しくする、愚かな行為だよ」ということを、日常的にチームの文化として伝えること。
- 試合は80分しかない。やってだめならとっとと変えて。と求め続ける
コーチは、練習の序盤や試合週の序盤ではある程度積極的に介入をし、
試合が近づくにつれて介入を弱めていき、選手自身で【修正】できるようにしていく。
選手がパニックにならずに自分たちでプレーの選択を変えるという能力を育むことが、勝利につながる重要な要素となります。
言葉の本質を捉える【修正とは→やってだめなら変える】
【修正する】
この言葉は、様々なインタビュー、解説で聞かれる便利な言葉だ。
コーチも「修正しよう」と声をかけることが多い。
ただ、この言葉の本質を捉えることができているだろうか。
そして、多くのコーチができていないんじゃないかと思っている。
便利でそれっぽい言葉こそ正確に使用しなければならない。
【修正する】という言葉の本質は行動の変化にある。
行動を変化させなければ、【修正する】ってことにはならない。
スポーツにおける【修正】は試みるものである。
ということも理解しなくてはならない。
要するに「やってみてダメなら変える」がこの言葉の本質にある。
練習のミスをチャンスにする【コーチ目線】
ミスばっかりの練習だとコーチもフラストレーションが溜まる。
コーチも人間なので、それは当たり前のこと。
悪いことではない。
そのフラストレーションは、どのようなフラストレーションか。
きっとそれは、「同じようなミスを何回もしているのに、何も修正されない(変化がない)」ってことにある。
しかし、【修正する】という言葉の本質を捉えたコーチであれば、同じようなミスにこそ練習のチャンスと思える。
他のカードが無いか聞く(ASK)
他のカードを提案する(SELL)
ミスが続いていることを自覚してもらい、選手にゆだねる(DELEGATE)
など、講習で習ったことを発揮する瞬間にもなる。
ミスをチャンスに変えるのは、選手だけでなく、コーチもである。
最後に:自分たちで考えてプレーするチームになる【コーチの手腕】
ここまでラグビーの試合に必要なことについて解説した。
重要なことは、【修正=変える発想と勇気】にある。
普段の練習から実行し続けられるかどうか、文化として積み上げていけるかどうかがコーチのやるべきこと。
選手が場に応じた適切なカード(選択肢)を出せるかどうか。
この駆け引きこそがラグビーの面白いところでもある。
これができるチームは、他から見ると、「選手が自分たちで考えてプレーするチーム」に見える。
選手自体の能力の高さでどうにかなるかもしれないと考える人はいると思うが、実際はコーチの手腕が問われている。
逆に「考えてプレーしていない」というのはコーチの怠慢とも言える。
「考えてプレーする」練習をコーチが普段の練習に盛り込まなければ、達成されないからだ。
選手が自分たちで考えて、自走して見えるチームであっても、そこにはコーチのサポートや安心感が不可欠であるのは間違いない。
コーチはチームにとって不可欠な存在である。

