「よく意識してプレーしよう」
「もっと考えてみよう」
「気持ちを入れてほしい」
グラウンドでこうした言葉を使ったことはないでしょうか。悪意はありません。むしろ選手への真剣な働きかけのつもりで発した言葉のはずです。
しかし——この言葉を受け取った選手は、具体的に何をすればよいかわからないまま、ただうなずいている。そういった場面を、1,000回以上の指導現場で何度も目にしてきました。
筑波大学でラグビーのバックスコーチを務めながら、大学院でコーチング学を研究している立場から、今回は「言葉を正確に扱う」というテーマで書きます。
この記事では以下について解説します。
- なぜコーチにとって「言葉」が最も重要なツールなのか
- 曖昧な言葉が選手の成長を妨げるメカニズム
- 「意識しよう」に代表される曖昧な言葉の具体的な変換方法
- コーチの言葉がチーム文化をつくる理由
コーチの最も重要なツールは「言葉」です
コーチが使う道具はさまざまあります。ボール、マーカー、ホイッスル、そして近年では映像分析ツールやGPSデバイスなども含まれます。しかしその中で最も重要なツールは「言葉」です。
戦術の知識がいくら豊富でも、選手を観る眼がいくら鋭くても、それを選手に伝える手段は最終的に言葉です。コーチングの質は、言葉の質に直結しています。
コーチとしてグラウンドに立つとき、その言葉はプライベートの会話とはまったく異なる力を持ちます。コーチから発せられた何気ない一言が、選手を奮い立たせることもあれば、競技を辞めてしまうきっかけになることもあります。競技人生だけでなく、人生そのものを左右する力が、コーチの言葉にはあります。
コーチである以上、まず自分の言葉が持つ影響力を十分に自覚することが出発点です。
言葉は「道具」——だから丁寧に扱う
コーチはよく選手に「道具を大事にしましょう」と伝えます。では、コーチ自身の道具はどうでしょうか。
一流の料理人を想像してみてください。包丁の扱いは、調理中だけでなく、日々の手入れにまで及びます。その所作には、職人としての誇りと美意識が滲み出ています。道具に向き合う態度は、どの職業であっても本質的には変わりません。
コーチの最も重要な道具は言葉です。誰よりも丁寧に扱い、日々意識的に磨き続けること。それがコーチとしての道具に対する誠実な向き合い方だと思います。
「言葉を正確に扱う」とは何か——「意識しよう」を例に考える
「言葉が重要なのはわかっている」という方も多いと思います。しかし実際のグラウンドでは、気づかないうちに曖昧な言葉を使い続けているケースが少なくありません。
「言葉を正確に扱う」とは、裏を返せば「不正確な言葉・曖昧な言葉を使わない」ということです。その代表例が「意識しよう」です。
便利だからこそ多用されやすい言葉ですが、実は「危険な言葉」のひとつです。無自覚に使っているとしたら、一度立ち止まって考えてみてください。
「意識しよう」——つまり何をするの?
指導現場でよく耳にする次のようなやり取りがあります。
コーチ:「意識したの?」
選手:「はい……」
これは「問いかけ」でしょうか?選手の立場で考えると、「意識する」とは具体的にどのような行動なのか、実はよくわかりません。コーチが「問いかけ」として使っているつもりでも、選手には「何をすべきか」が何も伝わっていない——これが「曖昧な言葉」の落とし穴です。
「意識する」の代わりに使う言葉
私が「意識しよう」の代わりに使うようにしている言葉があります。
「発見できた?」「見つけられた?」
スポーツにおける「意識する」とは、突き詰めると「(使える場面を)発見すること」「(今がその場面だと)自覚すること」だと考えています。
言葉の本質——特に「行動」を捉えることで、選手への問いかけに具体性と説得力が生まれます。
| 曖昧な言葉 | 問題点 | 言い換え例 |
|---|---|---|
| 「意識しよう」 | 何をするのか不明確 | 「発見できた?」「見つけられた?」 |
| 「もっと考えて」 | 何を考えるのか不明確 | 「次のプレーで何を選ぶ?」 |
| 「気持ちを入れて」 | 行動に結びつかない | 「2パス以内にコンタクトを起こそう」 |
| 「しっかりやろう」 | 基準が曖昧 | 「ボールを両手でキャッチしよう」 |
「意識する」以外にも、実は曖昧な言葉はたくさんあります。次の記事でも引き続き取り上げていきます。
コーチの言葉は「チーム文化」になる
これまでの経験上、コーチが普段使う言葉は、そのまま選手たちの言葉になります。どれだけ「選手主体のチーム」を目指していても、ハーフタイムのチームトークで選手が使う言葉は、日頃コーチが使っている言葉です。
コーチが曖昧な言葉を使い続けると、選手同士の話し合いも曖昧になり、行動の改善に至らない話し合いが繰り返されます。結果的に何も修正できないまま試合が進む——そんな場面も目にしてきました。
言葉を正確に扱うということは、プレーについて正確に言語化・分析できるということです。正確な分析は的確な改善につながり、選手自身がやるべきことを明確にイメージしてプレーに反映できるようになります。
まとめ——言葉を磨くことがコーチングを磨くこと
- コーチの最重要ツールは「言葉」である|言葉こそが選手の人生を左右する「威力」を持った道具です。まず自覚することから始まります
- 言葉を磨いて、丁寧に扱う|料理人が包丁を大事に扱い手入れをするように、コーチも自分の発する言葉を丁寧に扱い、メンテナンスを欠かさないことが大切です
- 不正確な言葉に注意する|なんとなく使っている「それっぽい言葉」を避け、具体的な行動に結びつくような言葉を選びましょう
- コーチの言葉が「チーム文化」をつくる|コーチの言葉遣いは選手に伝播します。正確な言葉のやり取りが、試合中の的確な修正力と規律を生みます
コーチとしての言葉を磨くには、まず自分が普段どんな言葉を使っているかを振り返ることから始まります。練習の映像を見返す、選手が話す言葉を観察する、信頼できる人に練習を見てもらう——どれも効果的な方法です。
言葉を磨く。最高の道具で最高の仕事をする。それはどの職業でも変わらない本質だと思います。

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