迷いを消し「選択」を加速させる:オプションAB練習法のデザイン

「状況を見て判断しろ」
コーチがよく使う言葉だが、実は選手にとってこれほど難しい注文はない。
ラグビーのグラウンドはカオスだ。
無限にある選択肢の中から「正解」を探そうとすれば、選手のパニックに陥ってしまい、何もできなくなってしまう。

「練習でやったことをやろう」
その通りだけど、そのためには、選手自体に積み上げがされていなければ難しい。
良い練習を積み上げていくのは、どちらかというとコーチの役割になる。
良い練習でアプローチできれば、選手自体に「積み上がる」。

その「良い練習」をするには、コツややり方というものがある。
それを紹介したい。
「オプションAB練習法」だ。
これはオリジナルの練習方法なので、調べてもどこにも出ていない。
考え方や手順を知る必要はあるが正直、全然難しくはない。

これはあくまで方法論である。
想いや気持ちも大事だが、それ以上にコーチにとって重要なのは、「良い練習方法」を知っているかどうかだと思う。
これが最善ではないかもしれないが、一つのフォーマットとして使えるかが大事だと思う。

もちろんこの練習を作るにあたっては、
ラグビーのプレーの本質や、他のことについても知っていればより理解しやすくなるので、他記事も読んで欲しい。


目次

オプションAB練習法とは?【まずはざっくり解説】

この練習法では、プレーの選択肢をあえて「A」と「B」の二択(あるいは少数)に絞ってスタートし、1日の練習の中で以下の5つのステップを実行していく。
細かく解説もするが、まずはざっくりと解説する。

カードゲームで例えるなら:

  1. 理解:手札の内容を知る
  2. 選択:カードの出し方を練習する
  3. 発見:カードを使う場面を見つけて出す
  4. 創出・創造:場面自体を作る / 新しいカードを作る
  5. 発揮:実際のゲームで勝負する

このステップを踏むことで、練習全体に**「ストーリー性」**が生まれ、選手は迷いなく加速できるようになる。

ステップやること目的練習の性質
1.理解手札を知るリスク・リターンの把握型の確認
2.選択カードを出すレビュー・すり合わせテクニック
3.発見場面を見つける状況把握スキル
4.創出場面を作る・創る主体性・創造性戦術・創造
5.発揮実際に使う再現性実践

そして練習を作る上で大事になるのは、「練習のストーリー性」だ。
練習におけるテーマ設定は、良く行われるし既にやっていると思う。
今回はその先、それを達成させるには練習自体に「ストーリー性」を持たせるための方法論となる。

1. オプションAB練習法【5つのステップ】

ざっくりと解説したので、ここからは詳細に解説する。
とはいえ、やることはシンプルではあるので難しくはない。
5つのステップに分解できる。
一つ一つ見ていく。

例で「2-1の攻撃」をテーマにする。
※【練習のやり方】として簡単に練習メニューを出してるが、あくまで1例。イメージ持ちやすくなっていれば嬉しい。

①オプションの理解(手札を知る)

「それぞれのオプションを確認し、それぞれ単体で練習する」

まずは「A」と「B」(または「C」以降が合っても良い)について理解してもらう。
「オプションの理解」とは、それぞれのオプション(プレー)の「リスクとリターン」を知ることが目的になる。
この場合、コーチが明示することになるが、既にチームとして方向性があれば、それに合わせることもできる。


【2-1におけるオプションの確認】
A:2人目の前が空いているならパス
リスク:パスミス/DFのスライド
リターン:空いているスペースにボールを早く運べる/足の速い選手にボールが渡る
B:1人目の前が開いているならラン
リスク:数的優位を活かせない/DFと1-1になる
リターン:パス回数がないため、パスミスが起きない/早くプレー選択できる→サポートしやすい

例:練習のやり方

・オプションAのパスの練習「だけ」をする
DFが2人目の前にスペースをわざとスペースを空けて、パスする状況を作る
・オプションBのランの練習「だけ」する
DFが1人目の前にスペースをわざとスペースを空けて、ランをする状況を作る

注意点:この練習では、ABをミックスしないこと。
あくまでそれぞれのオプションのリスクとリターンを理解することが目的。
「それぞれの単体なら簡単にできるよ」ってレベルになれば次のステップ。

② 選択(カードの出し方の練習)

「ABをミックスして選択する練習をする」

次のステップは「選択」の練習。
同時に試合中のコミュニケーションのプロセスを学ぶことも目的。

例:練習のやり方

DF1人はどちらかの前に立つ
合図で前を向く
オプションABを選択
プレー後にレビューする(トーク)
最初はゆっくりなペースで練習。だんだんと早いペースにレベルアップしていく。

この段階の練習の大事なところは、「プレー後のレビュー」にある。
今回の例の場合では、
「DFが1人目の前にいたからこのパスを選択した。」
と自分自身のプレーについて、すぐにレビューできる。しかも、その材料は既に「オプションの理解」で用意されている。
「そうだよね」と共通認識ができるし、
「いや、さっきはこうだったよ」と意見をすり合わせることもできる。
これは試合中のコミュニケーションの練習にもなる。

ラグビーの本質はプレー選択にある。
そしてプレー選択には理由がある。
「状況の把握→プレー選択→遂行」というプロセスを与えられた状況の中で練習する。

③ 発見(場面を見つけて使う)

「ABを使う場面が来た時を見つけて使う」

練習のために用意された状況においては、選択できるようになった。
ここまでは所謂「テクニック」の練習。
ここから「スキル」の練習に入る。

例:練習のやり方

AT4-DF2
DFはATをタッチしたらダウン(伏せる)
ATはタッチされたら股下からボール転がす
サポートATの選手がボールを出す
ATDFともに人数を徐々に増やしてレベルアップする。

この練習では、「発見」がテーマ。
練習してきた2-1の場面が毎回来るとは限らない。もしかしたら、全くその場面にならないかもしれない。
大切になるのは、「発見」するべく「観察」すること。

プロセスでいうところでの、「状況把握」にあたる。
「選択」の練習との違いは、「与えられた状況下ではない」ということ。
発見できないこともあれば、そもそもその場面にすらならない可能性もある。
もし、その中で「発見」できれば、一気に遂行しにいく。
その機会を見逃さずに「選択」しにいくことが求められる。

④ 創造(場面を作る+新しいカードを作る)

「ABを使える場面を自分たちで作る」+「オプションC(新しいアイデア)を作る」

使う場面を「発見」できなければしょうがないか…。
となるのはもったいない。
チャンスは訪れるものあるが、自分で創り出すことが試合では大事になる。

例:練習のやり方

AT6-DF6
DFはATをタッチしたらダウン(伏せる)
ATはタッチされたら股下からボール転がす
サポートATの選手がボールを出す
5フェーズでトライを取れなければ攻守交替
ATは好きな場所からスタート
5フェーズ分のサインプレーを考えて、実行

この練習では、作戦会議をしてもらい、トライのための【必勝攻略法】を考えてもらう。
「こうやって動いたら、トライ取れるんじゃないか」
その中にはきっと2-1の場面も想定されているはず。
この2-1までを自分たちで創出すること。
選手の主体性や創造性にアプローチできる。

もしかしたら、新たなオプションCが生まれてくるかもしれない。
「オプションAもBもうまくいかなかったらどうする?」
と問いかけるとアプローチしやすい。

⑤ 発揮(ゲームで使う)

「ゲームの中でどのように発揮されるのか(またはされないのか)をチェックする」

この段階はどちらかというとコーチのためにあると言っても良い。

例:練習のやり方

15-15の試合形式で確認をする。
強度はフルコンタクトでなくても、タッチでも全然構わない。
→試合形式になれば、練習でやったこと以外にもやらないといけないことが多くなるので、強度は調整可能。

「(色々な状況がある中で)選手がどのように反応するのか?」をチェックする。
そして「選手がどの段階まで来ているのか」を確認する。

ここまでの4つの段階のどこまでができていて、どこからができていないのか。
コーチにとっては、見極めが難しいところになる。
ミスが「どの種類のミスなのか」を正確に分析しなければいけない。
ミスの種類によって声掛けや、次回以降の練習内容に直結する大事なデータとなる。

チームトークをすれば、今日練習した2-1以外の話が殆どになる。
その中でも、「今日やったところ」についてもレビューができるように先導していく必要がある。
あくまで試合で発揮するために練習したので、ここにきてレビュー内容がブレてしまってはストーリー性(積み上げ)がわかりづらくなる。


2. コーチの問いかけが簡単になる【オープンクエスチョン】

共通のカード(AB)が決まっていると、コーチの問いかけが簡単になる。
何を問いかけるべきか、がシンプルになり、選手も答えやすい。
結果的に、選手の考えを整理することができるし、選手同士でもそのやり取りが可能になる。

選択肢の確認
  • 問いかけ:「他には何のオプション持ってる?」
  • 意図: 選手の「手札(AB)」を再確認。
  • 効果: 選手がやるべきことを再確認できる。オプションCの創出も助ける。
コールの確認
  • 問いかけ:「何てコールで動くの?」
  • 意図:選択→遂行のコールを再確認。
  • 効果:そのコールが出たら、選択したプレーを一気に遂行する。
役割の確認
  • 問いかけ:「そのコールは誰が出すの?」
  • 意図:誰の役割か再確認。
  • 意図:それぞれの役割することで、より意図的なプレー選択を行う。
タイミングの確認
  • 問いかけ:「そのコールはいつ出るの?」
  • 意図:合図のタイミングを再確認。
  • 効果:コールを出す/聞く人の両者のタイミングを作る。

あれこれ口を出す必要はない。選手の脳内にある「カード」を整理してあげるだけでいい。

答えは選手の中にある、という「プレイヤーズセンタード」なコーチングができる。


3. 「ミス」は最高のデータ【ミス待ち】

この練習デザインの最大の功績は、コーチがミスに対して苛立つ必要がなくなることだ。
ミスが起きた時、それは以下のどこに問題があるかを教えてくれる「格好の材料」になるからだ。
ミスのない練習も良いかもしれないが、コーチ的に視点で言うと、「ミス待ち」すらしてる。

  1. 理解:手札の内容を知る
  2. 選択:カードの出し方を練習する
  3. 発見:カードを使う場面を見つけて出す
  4. 創出・創造:場面自体を作る / 新しいカードを作る
  5. 発揮:実際のゲームで勝負する

〇選手はどこかの段階の「ミスをしてくれる」

コーチ

(ミス出た!わーい)
(これは…発見のミスかな…)
今はどうだった?!

コーチ

次はどうする予定?

コーチにとっては「ミスしてくれてありがとう!仕事ができた」っていう感覚になると健康的。
コーチは即座に「どの種類のミスなのか」を分析していく。
ミスの種類によって、問いかけの内容が変わる。

〇逆に全くミスが起きない時は逆に「疑う」

コーチ

(ミスが出なさ過ぎて奇妙…)
(さっきから同じ選択しかしていないような…)

コーチ

(何か見落としてるのかもしれない…)
(メニューが簡単すぎたのか…?)

コーチにとって「ミスが起きないことは逆に心配」っていう感覚になると良い。
「うまくいきすぎる練習」は注意。
ただの繰り返しの作業になっている、簡単すぎる、「選択」のチャレンジができない…などの可能性を疑う。

スポーツではミスが必ず起こる。
特に練習においては、ミスをしてもらうことがかなり重要。
コーチはミスをコントロールしなければならない。
練習メニュー作成時に「たぶんこんなミスが起こるはず…」と想定するのはマストと言っても良い。
ミスには選手の状態を確認するという重要な役割があることを覚えといてほしい。


まとめ:コーチを助ける

「状況を見て判断しろ」と曖昧な言葉で突き放すのは簡単だし、すごい楽。
なぜならコーチは何も考えなくていいし、何もしなくていいから。
でもそれはコーチの怠慢と言っていい。

コーチがやるべきは、「自分達にはどの選択肢があるのか」を確認すること。
プレー選択をするプロセス(発見→遂行)に立ち返ってもらい、建設的にプレーと向き合う。
この練習での繰り返しが、選手とチームを「自律」させる。

オプションAB練習法は、練習自体に一貫性(ストーリー性)が出る。
選手への質問、問いかけがシンプルになるし、ミスも歓迎される。
それはどれもコーチを助けるものになると思う。

良い練習は選手が作るのではなく、コーチが提供するべきだ。

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