メンバー選考、レギュラー発表。指導現場において、コーチの一言や態度が、選手のそれまでの努力の意味を大きく左右してしまう瞬間があります。
「あれだけ頑張ったのに、なぜ自分は選ばれないのか」
と選手が思うことは予想されます。
その時にコーチとして何を伝えられるか、正直なところ、今も答えを持っているわけではありません。
「努力は報われるのか」
選手にその問いを抱かせてしまう立場にあるコーチ自身が、まず向き合うべき問いでもあるはずだと思います。
今回は、この問いにコーチとしてどう向き合ってきたか。
そして『努力の地図』(荒木博行著 クロスメディア・パブリッシング)を読んで何が整理されたかを、同じ立場の指導者の皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
この記事は、指導者(コーチ)自身の学びとしてまとめたものです。選手に対して「努力は自己責任だ」「捉え方次第でどうにでもなる」という結論を押し付けるためのものではありません。メンバー選考という営みは、選手にとって一回一回が岐路になり得る、影響力の大きい出来事です。その重みを引き受けた上で、コーチとして何を学び、何を伝えられるかを考えていきたいと思います。
自分が現場で大事にしてきたこと
「レギュラーになる」「試合に勝つ」という結果は、相手や状況に左右されるものであり、選手自身が完全にコントロールできるものではありません。
一方で、「自分のできることを精一杯やる」ということは、選手自身の手の中にあります。
選手には「自分ができることをやっていこう」とよく伝えることが多いです。
とはいえ、選手は試合に出たい、活躍したい、と思っているのが当然です。
頭では理解できても、心では納得しきれない。そういう状態の選手と、何度も向き合ってきました。
コーチとしてできることは、
- これまでのプロセスに目を向けること
- これからのプロセスに注目していること
- 選考理由を説明できること
だと思います。
「努力の地図」を読んで、整理できたこと
『努力の地図』では、努力を「量→質→設計→選択」という階層で捉える整理がなされています。
これを知ることで、努力の種類が整理され、選手に伝えられる努力の幅が広がるように感じました。また、報酬についても「即時か遅効性か」「達成型かサプライズ型か」という2×2の枠組みで整理されています。
この枠組みに触れたとき、これまで現場で感じてきた「レギュラーという即時の結果だけを目標にすると苦しくなる」という実感が、少し整理された感覚がありました。「自分のできることを精一杯やる」という行動は、遅効性の報酬や、思いがけないサプライズ型の報酬につながっていく可能性がある行動なのだと、後から言葉が重なった形です。
本書には、次のような一節があります。
「努力は報われるのか」という問いは、客観視している人ほど「報酬」の定義は広く、真剣に頑張る当事者であればあるほど狭くなる。
荒木博行『努力の地図』クロスメディア・パブリッシング
選手本人は当事者であるがゆえに、報酬の定義がどうしても狭くなりやすいものです。
一方でコーチや保護者は、当事者ではないからこそ、「頑張ったことはいつか役に立つ」「今の結果だけがすべてではない」と、より広い視点で報酬を捉えられる立場にあります。
ただし、この「広い視点」は、コーチ自身がその結果を引き受けていないからこそ持てる視点でもあります。その自覚がないまま選手に押し付ければ、それは単なる「綺麗事」になってしまいます。広い視点を持てる立場だからこそ、それを選手に強要するのではなく、選手自身が納得しながら視野を広げていけるよう、手助けする側でありたいと考えています。
選考の場面で、コーチとして何を伝えられるか
選考という場面において、コーチはその結果を選手の代わりに引き受けることはできません。
しかし、その結果が「これまでの努力がすべて無意味だった」という意味に変わってしまわないよう、丁寧に言葉を届けることはできるはずです。
「レギュラーになれなかった」という事実と、「これまでの準備・自分のできることを精一杯やってきた努力」が無関係ではないこと。むしろ、その努力は形を変えて、これから先の別の場面で報われる可能性があること。そうした声かけを、一回一回の選考の重みを踏まえながら、丁寧に行っていきたいと考えています。
これが選手にどこまで届いているかは、正直分かりません。うまくいっていない時も残念ながらあるかもしれません。ですが、分からないからこそ、コーチ自身がこうしたことを学び続け、伝え続けていくことが必要なのだと思います。その姿勢を、これからも続けていきたいと思います。
まとめ ― この問いに、一緒に向き合ってみませんか
これまで、努力や結果について漠然と考え、手探りで実践してきた人も多いと思います。今回『努力の地図』を読んで、その漠然とした感覚が、少し整理されたように思います。知識や視点を持っているだけでも、指導における引き出しは増えていくのだと感じています。
それでも、選考の場面で選手にどう向き合うべきか、正解を持っているわけではありません。
「努力は報われるのか」
というシンプルで難しい問いに、これからも向き合い続けたいと思います。もし同じように悩んでいる指導者の方がいれば、ぜひ一緒に考えていただけたらうれしいです。
今回参考にした書籍はこちら↓
努力や報酬の種類、そしてそれを認知する神話などについて、わかりやすく解説されています。
努力を言語化し、まさに「地図」としての役割にもなる考え方です。
コーチングには正確に言葉を扱う必要があります。

努力はコーチにも共通です。


