前の記事で、コーチの言葉を「判断」から「選択」に変えることで、指導が具体的になり、対話や修正がしやすくなるという話をしました。
しかし、ここで多くの指導者が陥る、最大の「落とし穴」があります。
せっかく言葉を「選択」に変えたのに、グラウンドでこんなふうに怒鳴ってしまうパターンです。
NG例:「あの場面、なんで右へのパスを選択しなかったんだ!」
……お気づきでしょうか。語尾を「選択」に変えただけで、やっていることは「お前は間違った判断をした」と責める説教と100%同じです。これでは選手はまったく変わりません。むしろプレー自体が楽しくなくなってしまいます。
では、なぜ言い換えただけではダメなのか。それは、コーチ側の「マインドセット(前提条件)」が変わっていないからです。
この記事では以下について解説します。
- ラグビーに「唯一の正解」がない理由
- 「選手は思い通りにならない他人」という前提の重要性
- コーチが本当に変えるべきマインドセットとは何か
そもそも、ラグビーに「唯一の正解」はない

「なんで右を選ばなかったんだ!」と怒るとき、コーチの頭の中には「右へのパス=唯一の正解」があります。
しかし、ラグビーにそんな絶対的な正解はあるでしょうか?
外側にスペースが空いていたとしても、相手ディフェンスの詰めてくるスピード、味方の走力、風向き、点差と残り時間、それぞれのスキルレベル——すべては「その瞬間の文脈(コンテクスト)次第」です。外から見ているコーチの「正解」が、グラウンドのその瞬間にいる選手にとっての正解とは限りません。
コーチが「これが正解」と決めつけている限り、言葉をどう変えようが、選手にとっては「コーチの頭の中にある正解を当てるゲーム」のままです。
選手は「思い通りにならない他人」である

コーチングの本質的な難しさは、「選手は、自分の思い通りにはならない他人である」という事実です。
どれだけ戦術を仕込んでも、ミーティングを重ねても、グラウンドでプレーを選ぶのは選手自身です。コーチがリモコンで操作することはできません。
もちろん、コーチの「正解」が合理的であったり、最適解に近いことはあります。その考え自体が間違っているわけではありません。問題は、「自分の思った通りに選手を動かしたい」という幻想を抱いてしまうことです。
【覚悟として持つべき前提】
「ラグビーに唯一の正解はない。そして、目の前の選手は自分の思い通りにならない他人である」。
言葉を「選択」に変える本当の意味は、この前提をコーチ自身が受け入れる「覚悟」にあります。
コーチとは「支援者」である

グラウンドで「なんでそっちを選択したんだ!」と言いたくなったら——まずは声に出す前に一回立ち止まって考えてみてください。
ラグビーに「唯一の正解」はない。選んだのは、思い通りにならない一人の独立した人間(選手)です。コーチがやるべきことは、自分の正解と違ったからといって怒って正すことではありません。
【 コーチの役割】
「あの文脈の中で、なぜそのカード(手札)を選んだのか」を問いかけ、選手と一緒に次の手札を洗練させていく「支援者」になること。
ただ単に言葉を変えるだけでなく、コーチの「選手を見る目」を変えることが必要です。
まとめ——結局はマインドセットが大事
- ラグビーに「唯一の正解」はない|コーチの正解が、その瞬間グラウンドにいる選手の正解とは限りません
- 選手は「思い通りにならない他人」である|プレーを選ぶのは選手自身。コーチがリモコンで操作することはできません
- 言葉の変化より、マインドセットの変化が先|セリフを変えるだけでは指導は変わりません。前提となる「覚悟」が必要です
- コーチは「支援者」である|問いかけ、選手と一緒に次の手札を洗練させていくことがコーチの役割です
どのような言葉を使っても、コーチのマインドセットが変わらなければ意味はありません。逆に言えば、支援者としてのマインドセットができているなら、「言葉を正確に扱う」ことは大きな効果を発揮します。
言葉の変化は、選手にとっては小さな変化かもしれません。しかし、コーチのマインドセットの変化や覚悟は、言葉以上に選手に伝わるものだと思います。
選手が良くなっていくために、コーチがその先陣を切っていきましょう。

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