あなたの指導、次のような傾向はありませんか?
- 練習の最初に、必ず自分がお手本を見せる
- 選手が困っている様子を見ると、つい答えを先に言ってしまう
- 「なぜそう思う?」より先に「こうしろ」という言葉が出る
- 自分が選手時代に受けた練習メニューを、ほぼそのまま使っている
一つは当てはまるんじゃないでしょうか。
もちろん、悪いことでもなんでもなく、それは自然なことです。
多くのコーチが、選手の前に立つ時には、「教える」中心の指導、いわゆる「ティーチング」の手法を取ると思います。
基礎技術を分解して、順序立てて伝える。この指導法自体、選手の理解を助け、短期間での上達を後押ししてくれる、優れた方法だと思います。
ただ、一方でこのようにも考えているコーチも多いと思います…!
- コーチとしてアップデートしていきたい
- コーチングについて、実際に何から勉強したらいいかわからない
- まずは明日から使えそうなもの教えて…!
今回の話で、まずはコーチングの手法を知って、これまでの指導をちょっとアップデートしてみる。
それだけで、コーチとしての時間はぐっと充実したものになると思います。
実際、「教える」指導だけに偏っていると、練習ではきれいにできていたはずのプレーが、試合になると出てこない。丁寧に教えたはずなのに、選手が思うように動けない。そんな経験、あるんじゃないでしょうか。
今回は、
- ティーチング
- コーチング
という2つのアプローチ(手法)について解説します。
結論から言ってしまうと、答えはシンプルです。
ルールや安全に関わることはティーチングで教えて、選手自身の意思決定に関わる場面はコーチングで引き出す。そして、その軸になるのはコーチの目線じゃなく、選手自身の「反応」と「感覚」です。この記事では、その使い分けの基準を、私自身の実践をもとに整理していきます。
ティーチングとは
コーチとして「何かを教えよう」と思っているとき、そこで取られているアプローチがティーチング的アプローチです。コーチの中にある答えを選手に渡す作業。言い換えると、コーチがアウトプットして、選手がインプットする。それがティーチングです。

私自身、指導者になりたての頃からずっと続けてきたのが、「理解→分解→再構築」というやり方です。(この言葉は『鋼の錬金術師』という漫画から借りてきています。)
ラグビーのプレーをそれぞれの要素に分解して、一つひとつの技術を正確に伝え、積み上げて再構築していく。知識のある者から知識のない者へ、正確かつ効率的に伝達していく方法です。
この手法自体、今でも優れたものだと思っています。
冒頭にもあったように、選手にとって分かりやすいですし、短期間でテクニック(技術)を理解・習得させるには効率的です。
実際、私の指導を受けたことがある方、あるいは見たことがある方の中には、「わかりやすい」と感じてくださった方もいるんじゃないでしょうか。コーチの中に「正解」があるので、説明しやすいし、指摘もしやすい。それがティーチングのメリットです。
ティーチングだけでは越えられない壁→文脈
ただ、この方法だけでは届かない範囲があります。ドリルと反復練習で身につけた技術って、正確に見えますよね。柔道や剣道でいう「型稽古」に近いもの、とイメージするとわかりやすいかもしれません。決まった状況を、決まった手順で繰り返す稽古です。
しかし、それだけでは試合になると発揮されません。
なぜでしょうか?
それは全ては文脈(コンテクスト)次第だからです。
文脈(コンテクスト)とは…
背景や流れ、選手を取り巻く環境すべてを指します。
例えば、
- 時間
- 点差
- 疲労度合い
- 相手との関係
- 味方との関係
など…無数の要素が複雑に絡み合って、一つの文脈(場面、状況)をつくっています。
このことから「あの試合のあの場面」というのは、二度と現れないし、そもそも練習で再現をすることはできません。
「練習ではできるのに、試合になるとできない」という選手の姿に心当たりがあれば、それは選手の能力不足でも、指導者の力量のなさのせいでもありません。
ティーチングという指導法が「文脈」という壁に届いていない、というだけのことなんです。
ルールや安全面、知識・技術的な情報を求められている場面です。
- ルールの確認
- 危険を伴うプレーに関する注意
- 基本的なフォームの理解
これらは選手に発見させるべき対象じゃないですし、発見させている時間的な猶予もありません。こうした場面では、ティーチング的な手法で明確に教える必要があると考えます。
コーチングとは
ティーチングとは前提がまったく違うのが、コーチング的な手法です。答えを持っているのはコーチではなく、選手自身。選手がアウトプットして、それをコーチがサポートする。それがコーチング的アプローチです。

コーチングでは、コーチがファシリテーターとなって、選手の考えや意見、感覚といったものを引き出していきます。様々な文脈でのプレーにも対応できて、選手主体の指導ができる。これがコーチングのメリットです。
一方で、あらゆる場面に柔軟に対応できるかというコーチ自身の力量や、先を見据えた計画・環境設定ができるかが問われます。
また、選手の主体性を伸ばしていく、という意味では時間がかかるかもしれません。
この「引き出す」という関わり方については、以前コーチとは何かという記事でも触れましたが、今回はその関わり方を、ティーチングとの使い分けという実践的な視点からもう一歩掘り下げていきます。
コーチがすること→「聞く」
選手側に答えがあるとすれば、コーチにまずできることは「聞く」ことになります。
もちろん、外から見えているものを伝えることもできますし、必要な行動です。
オーストラリアの水泳チームを率いたビル・スウィーテンハム氏の言葉として、こんな一文が紹介されています。
水泳選手は水を感じることができる。監督はストロークを見ることができる。
ジム・トンプソン(著)『ダブル・ゴール・コーチ 勝利と豊かな人生を手に入れるための指導法』東洋館出版社、2021年、p.143
監督は選手たちとは違う視点で見ているから、選手たちが知らない情報を提供できる、と考えることができます。ただ、コーチの本来の役割は、答えを渡すことじゃありません。
選手が自ら学ぶ環境を作り、選手の中にあるものを引き出し、学んでもらうこと。それがコーチの本来の役割です。
プレー選択や意思決定や意図に関わる場面です。
- この場面、振り返ってみて、どう思った?
- そのように思う理由は?
- 次はどうしたい?
- 相手はどうしてくると思う?
- 必要なことは?
こういった質問をインタビューするつもりで投げかけ、聞いてみるといいと思います。
選手の考えを聞き、引き出すことによって、コーチ自身も選手に必要なものを見つけるヒントになります。
すぐに答えを出さないのは、不親切に見えるかもしれません。でも、選手が自分の中から答えを引き出す過程にこそ、価値があると考えています。
コーチの目線ではなく、選手の「反応」と「感覚」を軸にする
ここまで、ティーチングとコーチングをどう使い分けるかを見てきました。最後にもう一つ、両方に共通して大事にしたい軸をお伝えします。
それが「反応」と「感覚」です。
「判断」という曖昧な言葉を避けて、言葉を正確に扱うことの大切さについては、以前の記事(「判断しろ」では選手は動けない)で詳しく書きました。ここで改めて強調したいのは、コーチ側の「判断」や「目線」ではなく、
あくまで【選手が】反応して動ける、【選手の】感覚がどうか、という視点です。
なぜなら、そもそも選手とコーチは、見ている景色も、持っている情報も違うからです。先ほどのスウィーテンハムの言葉のように、コーチには選手とは違う視点から見えるものがある一方で、選手にしか感じられない感覚もある。だからこそ、コーチ側の言葉で選手の動きを決めつけるのではなく、選手自身の反応・感覚を軸に指導を組み立てる必要があると考えています。

ラグビーというスポーツの特性上、ボールを持った選手(ボールキャリア)にすべての選択肢があります。周囲の選手は、ボールキャリアの動きに反応してプレーするしかありません。
この反応の効率性を高めようとするのが、近年のシステマチックなラグビー、いわゆるPODシステム*です。あらかじめ配置と役割をパターン化して、選択の効率化と最適化を狙います。しかし、システム通りに動けない場面が必ず出てくるのがラグビーの複雑性。パターン化された動きだけを磨いても、それが試合で発揮されるとは限りません。
*PODシステムとは、FW8人の配置を固定する(例:1-3-3-1)ことにより、ポジショニングの効率性やオプション(選択肢)のパターン化を図る現代ラグビーを象徴する戦術です。殆どのチームがこの戦術を採用しており、効率性、再現性、拡張性がある。
よく「日本はチームランやドリル練習は精度が高いけど、試合になると海外チームの方がラグビーが巧く見える」とよく表現されます。これは試合の状況に対する選択・反応・感覚の鋭さの差だと感じています。パターンに当てはまらない状況にどれだけ対応できるか。それが、試合で発揮される力の差につながっていると思います。

まとめ:明日からの指導にどう活かすか
今日から実践できる、ティーチングとコーチングの使い分けの目安をまとめてます。
| ティーチング | コーチング | |
|---|---|---|
| 役割 | コーチ→アウトプット 選手→インプット | コーチ→ファシリテーター 選手→アウトプット |
| 向いている場面 | ルール・安全面・基礎に関わる場面 | 意思決定・意図に関わる場面 |
| メリット | 説明・指摘しやすい | プレイヤーセンタード 文脈への対応 |
| デメリット | 受け身になりやすい 文脈への対応 | コーチの力量・対応力・環境設定が問われる |
| 象徴的な掛け声 | 「こうしよう」 | 「どうしたい?」 |
| 共通して必要なのは「使い分け」。 コーチの「判断」ではなく、選手の「反応」「感覚」を主語にして声をかける | ||
「分解→再構築」というドリルや反復練習は、正確で効率的な技術伝達の手段として、今も価値のあるやり方だと思っています。
しかし、試合で発揮されるかどうかは、全ては文脈次第。
同じ文脈は二度と訪れないというラグビーの複雑性を踏まえると、それだけでは選手を試合で発揮できる状態には導けない可能性があります。
選手とコーチでは見ている景色も、持っている情報も違う。だからこそ、選手自身の反応・感覚を大事にする指導を、私自身も今も試行錯誤しながら現場で探り続けています。
ティーチングとコーチング、どちらか一方を極める必要はありません。まずは次の練習で一度だけ、意思決定に関わる場面で「どうしたい?」と問い返してみる。そんな小さな一歩から、始めてみるだけでも、コーチングがアップデートされている瞬間だと思います。
一緒に学んで楽しんでいきましょう!


